【債権的法律行為】
通則法は、7〜9条において契約の成立と効力を、10条において方式を規定し、弱者保護の観点から11条において消費者契約を、12条において労働契約の特則を定める。また、準拠法の決定にあたり、実質の問題(実質的成立要件及び効力の問題)と、形式の問題(形式的成立要件の問題)は区別される。
◎当事者自治の原則
債権的法律行為の準拠法は当事者の意思で決定することができる。当該契約に関係の薄い地の法を選択することも可能であり、口頭での選択も認められる。この趣旨は、当事者自治の原則を国際私法にも反映し、当事者の予測可能性を担保して国際取引の安全と促進を図る点にある。
Q.準拠法の指定及び変更の時期をいかに決するか。
A.「法律行為の当時」(7条)に選択されていない場合には最密接関係地法への客観的連結がなされるのが原則であるが(8条)、当事者自治の原則から、口頭弁論終結時までに指定及び変更がなされれば足りると解する。
Q.黙示的選択は認められるか。
A.当事者自治の原則から、黙示的選択も認められる。もっとも、8条が当事者による準拠法の選択がない場合を定めていることから、現実的な意思の黙示的表示があったとされる場合に限られ、仮定的な意思による選択は含まれないと解する。
Q.分割指定が可能か否か。
A.当事者の意思尊重の観点から分割指定は可能であると解する。
Q.準拠法選択行為自体の有効性をいかに判断するか。
A.当事者の予測可能性、基準の明確性、契約本体の有効性の判断との整合性の観点から、当事者が準拠法として選択した実質法を基準として判断すべきと解する。
◎当事者による明示又は黙示の指定がない場合
当該法律行為の当時における最密接関係地法が準拠法となる(8条1項)。当事者の意思のみならず、国籍や住所、契約内容、目的物の所在地などを総合考慮する。なお、法律行為後の事情は考慮しない点に注意が必要である。
同条2項は特徴的給付の理論を採用している。その理由として、①金銭の支払いよりも目的物の引渡しや役務の提供の方が一般的に困難であるため当該給付を行う当事者の保護を図る必要性が高いこと、②大量の商取引を統一的に処理する必要性が挙げられる。なお、交換契約のように当事者双方が金銭以外のものを給付する場合には同項は適用されない。また、同項はあくまで推定規定であるため、他の最密接関係地法が認められれば推定が破られ、同条1項により当該最密接関係地法が準拠法になる。
同条3項は不動産を目的物とする契約については「不動産の所在地法」が最密接関係地法として推定される旨を規定する。その理由は、不動産についての債権的法律行為においては登記や登録が発生することが通常であるため、その所在地と密接に関連するためである。なお、同項の対象は不動産の売買契約や賃貸借契約などであり、修繕業務の請負契約などは不動産をその目的物としていないため対象外である。なお、推定規定である点は同条2項と同様である。
◎法律行為の方式
通則法10条は法律行為の形式的要件についての規定である。同条は選択的連結を採用し、①契約の実質的成立要件の準拠法(同条1項)、②行為地法(同条2項)のいずれかにおいて契約の方式が合致すれば、契約の成立を認めている。これは、可能な限り契約を有効にするためである。なお、債権的法律関係における消費者契約については11条において特則が定められている点に注意が必要である。
隔地的契約の場合には、①契約の実質的成立要件の準拠法(同条1項)、②申込みの発信地法、③承諾の発信地法(同条4項)の選択的連結を採用している。なお、取消し、解除、相殺などの単独行為については、「行為地」を通知の発信地と定め(同条3項)、当事者の便宜を図っている。
また、物権的法律行為の方式については行為地法の適用(同条2項)を排斥し(同条5項)、同条1項により「目的物の所在地法」(13条)において要求される方式を備えなければならない。