【消費者契約の特則】
消費者契約の特則を定める通則法11条の各項の趣旨は以下のとおりである。なお、消費者契約にあたるか否かは契約内容ではなく当事者が個人と事業者であるかによって決まる。
◎1項
情報力及び交渉力の点で弱い立場に置かれがちな消費者に対して、事業者があえて消費者保護に薄い実質法を選択する可能性があるため、その弊害を防止する(要件を満たすことで消費者の常居所地法の中の強行規定が重畳的に適用される。)。
◎2項
準拠法の選択がない場合に、8条2項によって最密接関係地法と推定されるのが事業者の事業所所在地法となることによる消費者の不利益を防止する。
◎3項ないし5項
契約の方式に関する10条による選択的連結では消費者の保護を図れないことから設けられた規定である。契約の方式が消費者の常居所地法上の要件を満たしていない場合に、消費者がその常居所地法を適用して契約を無効とできるようにする。
・3項…消費者の常居所地法以外の法が選択されている場合、消費者の常居所地法の強行規定のみの適用を求めることができる。
・4項…消費者の常居所地法が選択されている場合、その法のみの適用を求めることができる。
・5項…当事者による法選択がない場合、消費者の常居所地法のみが準拠法となり、選択的連結は採用されない。
◎6項
・1号、2号…事業者の予測可能性を確保して過度な干渉を防止し、自ら外国に赴いた消費者については保護の必要性が乏しいことから除外する。ただし、「勧誘をその常居所地において受けていたとき」は保護される。
・3号、4号…消費者保護よりも事業者の予測可能性を保護する必要性を重視する。
【労働契約の特則】
消費者契約の特則を定める通則法12条の各項の趣旨は以下のとおりである。
Q.労働契約とはいかなる契約をいうか。
A.使用者の指揮監督のもと、労働者が労務を提供し、それに対して使用者が賃金を支払う契約をいう。
◎1項
労働者と雇用者の交渉力等の点における格差を考慮し、労働契約の最密接関係地法の強行規定の適用を確保して労働者の保護を図る。原則として当事者自治(7条、9条)が認められるが、法選択がない場合には8条1項における最密接関係地法が準拠法となるものの、同条2項の推定規定(特徴的給付の理論)は排除される(要件を満たすことで最密接関係地法の中の強行規定が重畳的に適用される。)。
◎2項、3項
労働者の期待を保護し、使用者の予見可能性にも配慮する。また、労務提供地は労働市場における秩序維持の観点から最も利害関係を有する点も考慮する。また、労務提供地が特定できない場合には労働者を雇い入れた事業所の所在地の法と推定される。なお、あくまで推定規定であることから、反証により推定を覆すことも可能である。
Q.「労務を提供すべき地」(12条2項、3項)が複数ある場合の処理が問題となる。
A.この点について、同条の趣旨は、労働者の通常の期待及び使用者の予見可能性に配慮し、労働市場における秩序を維持する点にある。そこで、かかる場合の労働契約の最密接関係地法は主たる労務提供地の法であると解する。
契約の方式については、消費者契約とは異なり、10条によって決定される。これは、選択的連結を排除して契約の成立を否定することが労働者の保護に資さないためである。