【自然人の行為能力】
自然人の身分的行為能力と財産的行為能力のうち、通則法4条における「人の行為能力」とは財産的行為能力のうち、年齢による行為能力のせい弁の有無を意味する。身分的行為能力については、各身分の成立要件の問題として、各単位法律関係の準拠法による。
Q.婚姻による成年擬制の単位法律関係をいかに処理するか。
A.婚姻の効力(25条)とする見解もあるが、自らの判断で婚姻する未成年者は精神的に成熟しているとして取り扱う制度であるため、「行為能力」(4条)によって処理するのが妥当である。
同条1項は本国法主義を採用している。その趣旨は本人保護の点にあり、①一国の法律は、その国の気候、習俗、風土などを考慮して制定されていることから妥当であること、②国籍は変更が容易でないため法的安定に資すること、③確定が容易かつ確実であることが挙げられる。なお、この場合の本国は行為当時の本国を指す。
同条2項は取引安全のための要件を定める。同項が善意無過失を要求しない趣旨は、①訴訟遅延の防止、②調査の必要性による円滑な取引の障害となることを防止する点にある。また、「すべての当事者が法を同じくする地に在った場合」というのは、「当該法律行為の当時」であればよく、その後に当事者の一方が他の法域に移動しても同項は適用される。
なお、本国法及び行為地法において行為能力者でない場合には同項の直接適用はないが、本国法において定める行為能力の制限が行為地法による制限よりも大きい場合には、同項を類推適用し、その制限を行為地法の範囲まで引き下げるという見解がある。
同条3項は、同条2項を適用しない場合を定める。特に不動産については、その取引の行為地よりも当該不動産の所在地との関連性が強いため、不動産取引においては同条1項に定める通り、当事者の本国法が準拠法となる。
【成年後見・補佐・補助】
まず、5条によって、後見開始などの審判を受けるべき者が日本に住所若しくは居所を有するとき、又は日本の国籍を有するときは、日本の裁判所に管轄権が認められる。当該審判の準拠法は日本法である。したがって、請求権者や請求原因、行為の制限の範囲などは日本法によって決せられる。
他方、後見人の選定や権利義務については、35条によって準拠法を定める。原則として、被後見人等の本国法が準拠法となる。例外として、外国人の被後見人が日本の裁判所で審判を受ける場合(5条)であり、①当該外国人の本国法によれば後見等が開始するにもかかわらず日本国内に後見等の事務を行う者がいないとき、②当該外国人について日本の裁判所が後見開始の審判等を行ったときには、日本法が準拠法となる。
Q.親権の準拠法は32条と35条のどちらで定めるか。
A.未成年者の保護は親権者によるのが原則であるから、32条を優先し、同条によると親権者が存在しない場合には35条を補充的に適用する。
【法人】
法人格の存否などの基本的事項を規律する法として従属法という概念を用いる。
Q.法人の従属法をいかに決するか。
A.明文規定がないため条理で判断する。法人の本拠地法を従属法とするという見解(本拠地法説)があるが、本拠の移転に伴い従属法が変わるのは法的安定を害する。そこで、法人が設立の際に準拠した法を従属法とすべきと解する(設立準拠法説)。
従属法が適用される問題として特に重要なものとして、当該法人の代表者の権限に関する問題が挙げられる。また、法人の一般的権利能力及び行為能力についても4条2項が類推適用され得るため、当該法人について行為地法によれば権利能力が認められる場合には、その権利能力を認めるのが通説である。
Q.法人格否認の法理の準拠法をいかに決するか。
A.法人格否認の法理の適用場面が多種多様であることから、問題状況に応じて個別に検討すべきと解する。例えば、不法行為責任の追求を親会社に行う場合には、当該不法行為の準拠法によるべきである。また、債権者による責任請求を出資者に行う場合には、債権者全員において統一的な処理が求められることから、法人格を否認される会社の従属法を準拠法とすべきである。