【婚姻】
婚姻については、その成立と効力に分けて論ずる。
◎婚姻の成立
各国においては、婚姻年齢や近新婚、待婚期間や重婚の可否といった規定に加えて、儀式や届出などの形式的要件が異なっている。婚姻の成立について定める通則保う24条は、属人法により本人の保護を図るとともに、抵触法上の両性平等の実現のため、配分的連結を採っている。なお、当事者の一方のみにかかわる一方的要件と、双方にかかわる双方的要件がある。
Q.ある要件が一方的要件であるか双方的要件であるかの判断基準が問題となる。
A.この点について、準拠法の指定という国際私法の解釈問題であるから、国際私法独自に決すべきである。そこで、当該要件が両当事者の関係に係る場合には双方的要件であると解する。
Q.準拠法たる当事者の本国法を適用した結果、実質的成立要件を欠く場合の効果が問題となる。
A.一方的要件については、当該要件を欠いた当事者の本国法により決する。双方的要件については、双方の本国法が重畳的に適用されるため、より厳格な効果を定める法を適用する。
通則法24条2項は挙行地法主義を採用する。また、同条3項は婚姻挙行地法に加えて夫の本国法及び妻の本国法の選択的連結を採用し、婚姻の成立を容易にしている。もっとも、同項ただし書は例外的に「日本において婚姻が挙行」され、「当事者の一方が日本人であるときは」日本法のみを準拠法とする日本人条項を規定する。これは、その身分関係を戸籍に迅速に反映するという趣旨である。なお、当事者一方の「本国法」による場合には反致の可能性があり、その際は選択的連結と反致の論点が発生する。
※民法741条により、「外国に在る」「日本人間」での婚姻は、その国に駐在する日本の領事等に婚姻届を提出することで成立する。これは日本人同士の婚姻に限定されていることに注意が必要である(領事婚)。
◎婚姻の効力
婚姻の効力は、夫婦間の同居義務や貞操義務などの身分的効力、夫婦財産の共有性または別産性などの財産的効力に区別される。なお、夫婦間の扶養義務については扶養義務の準拠法による。
◎婚姻の身分的効力
通則法25条は、夫婦の同居義務や貞操義務などの身分的効力について定める。まずは第一段階として夫婦の同一本国法を、第二段階として同一常居所地法を、第三段階として最密接関係地法を準拠法とする段階的連結を採用する。段階的連結のため、反致の適用はない。
Q.婚姻によって妻の行為能力を制限する規定が存在する場合、これを婚姻の効力とみるか行為能力一般の問題とみて4条で処理するか問題となる。
A.この点について、当該規定は夫の主導権を確保するという趣旨の制度であることから、婚姻の効力の問題として処理する。
Q.夫婦の日常家事債務の連帯責任について、婚姻の効力として処理すべきか。
A.この点について、財産的側面の問題であり、26条3項によれば端的に国内取引の安全を確保でき妥当であることから夫婦財産制の問題と解する。
Q.夫婦間の契約の取消しの可否の処理が問題となる。
A.共同体としての夫婦の婚姻生活遂行のための規定であるため、婚姻の効力の問題として処理する。
◎婚姻の財産的効力
通則法26条は婚姻の財産的効力について定める。同条1項は、25条の段階的連結を準用しており、変更主義を採用する。もっとも、同条2項は当事者自治を尊重し、その選択によって準拠法を固定化できる旨を規定する。なお、重国籍者についてはいずれの国籍国の法も選択できる。この点については、文言上「国籍を有する国の法」となっていることから38条1項の対象とされない。したがって、反致の適用はない。
準拠法選択の合意の成立要件は、「署名した書面で日付を記載」する必要がある。また、当該合意は準拠法選択についての合意であり、選択された準拠法による具体的な夫婦財産契約の成立については34条が適用される。
Q.準拠法が変更された場合に効力が問題となる。
A.この点について、26条2項が将来効を規定していることもふまえて、法的安定性の観点から準拠法の変更の効力は将来にむかってのみ生じると解する。
26条3項は、善意の第三者を保護して取引の安全を図る規定である。なお、ここにいう善意とは、当該夫婦の夫婦財産制の準拠法が外国法であることについての善意である。他方、同条4項は、外国法によって締結された契約を日本において登記した場合の対抗力を規定し、第三者の利益と当事者保護の調和を図っている。
【婚約・内縁】
Q.婚約や内縁の準拠法をいかに決するか。
A.これらについて問題となるのは不当破棄や相続の場面であることから、不法行為(17条以下)や相続(36条)により準拠法を決すると解する。